ジェイソン・ブラウン SP「Love Is a Bitch」

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国別対抗戦も終了し、フィギュアスケート2018-19シーズンは幕を閉じたが、世界選手権のレピユーをもう少しだけ。国別対抗戦に出場しない選手にとって、世界選手権が今シーズン最後の演技となり、それぞれに有終の美を飾った。アメリカ代表のジェイソン・ブラウンもその一人だった。アダム・リッポンが引退し、ミーシャ・ジーが選手ではなく振付師としてスーツ姿で会場にいる今季、筆者がその重要性を提唱しているクロスジェンダー・パフォーマンスの担い手として、彼の存在は貴重である。

US Figure Skating誌はジェイソン・ブラウンを「Vintage Style」のスケーターと書いている。この名称には違和感があるが、4回転ジャンプ等の大技ではなく、各エレメントの完成度で勝負するスタイルを競技会で貫き、勝ち進むのは並大抵のことではない。ノーミスはもちろんのこと、スピン、ステップは全てレベル4、GOEは全て4または5、そして演技構成点は全て9以上というパーフェクトプレイが必須となる。それに近い完成度でSPでリードし、GPS地区大会や全米選手権でメダルを勝ち取ってきたジェイソン・ブラウンだったが、今回、各国の強豪が揃う世界選手権において、SP 2位に入る名演技を披露した。ジョニー・ウィアーのトリノ五輪 SP 2位以来の快挙と言えるだろう。他の選手の不調が幸いしたからというわけではない。SP3位の羽生結弦の技術点を上回り、現時点で最高エレメントの4Ltz+3Tを成功させたヴィンセント・ジョウ、4Tを含むクリーンな演技を見せたマッテオ・リッツォを演技点で超えた上での結果なのだから。
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ジェイソン・ブラウンを勝手にクロスジェンダー・パフォーマーと定義して応援してきた筆者であるが、ジョニー・ウィアーほどのインパクトを感じられず、物足りなさも感じていた。しかし、自信に満ち溢れた今回の彼の演技にウィアーに負けぬほど濃厚なセンシュアリティが香り立つのを感じ、魅了された。今季のSP「Love Is a Bitch」にクロスジェンダー的テーマや含意はないが、いつも爽やかで控えめな彼自身のキャラクターとは異なる一面を見せ、繊細な美しさだけではない、甘く濃厚な毒を含んだ、クロスジェンダーパフォーマーならではの色気に溢れていた。ターンよりも捻りを効かせた微妙な動きはこの上なく優雅だが、スピード感と力強さ、そしてヴィンテージと言うよりコンテンポラリーな洗練が漂っている。ジャンプでさえ、音楽の流れの中で自然に行われ、踏んばらない軽やかな跳躍で回転し、着地後もポーズを鮮やかに決めつつ、勢いを得たかのように演技は続く。トレードマークのバレエジャンプも軽やかに跳び、柔軟性を生かしたアクロバティックに8回転するレイバックスピンをはじめ、スピンの一つひとつが完成した芸術作品のようであった。
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ノーミスで滑り切り、演技を終えた彼の笑顔や仕草はいつも通り、一種乙女ティックなニュアンスがあり、そのギャップがファン達を喜ばせた。今回のSPはこれまでになくパワフルだったが、かえって彼自身の特性であるジェンダー概念を超越した美しさが際だっていた。そして、ジェイソン・ブラウンはこれまでこの演技に滲み出ていた官能性を含んだ濃厚な魅力を封印していたのはではないかと思えてきた。だとしたら、ぜひ臆することなく存分に表現して欲しいと思う。

世界選手権は羽生結弦とネイサン・チェンの対決で盛り上がったが、SP2位のジェイソン・ブラウンの存在が無視されていたのが悲しい。ネイサン・チェンの演技の前に会場から巻き起こった声援と喝采については誇らしく思うが、その後の滑走者だったジェイソン・ブラウンに声援を贈らなかったことが悔やまれる。それは彼の存在価値を深く理解しリスペクトしている筆者の役目だったのに、タイミングを逸してしまった。

果敢にも冒頭に4Sに挑んだものの、成功には至らず、FSで順位を落とす結果となってしまったが、今回の彼のSPはその完成度、芸術性の高さにおいて、4回転ジャンパーを超えた名演技として語り継いでいきたい。ヴィンテージ・スタイルという定義はやはり違和感があるが、フィギュアスケートの本質的な美の一面に気づかせてくれる彼の成長を今後も期待したい。

ジェイソン・ブラウンのライバルは羽生結弦である。今回はSPでリードすることができたが、全てのエレメント(特に3A)のGOE、演技構成点において、彼を上回る演技を見せて欲しいと思う。そのためには、封印している本来の魅力を曝け出して欲しいと切に願う。筆者の予感は邪推に過ぎないかも知れないが、全く外れていることはないだろう。彼の新たな、恐らく本来の魅力が溢れて出ているのをこの目で目撃したのだから。

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