映画『氷上の王、ジョン・カリー』レビュー

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念願叶ってジョン・カリーの記録映画が制作され、日本でも公開された。インスブルク・オリンピック金メダリスト、ジョン・カリー・カンパニーの設立者として歴史に名が残るジョン・カリーこそ、フィギュアスケートを「スポーツから芸術へと昇華させた」立役者である。

純然たるノンフィクション、記録に徹することで、ジョン・カリーにオマージュが捧げられ、彼の追究した美しいスケート、彼自身の生きざま、苦悩、そして偉大さが伝わってくる。スケーティング映像、写真、手紙、そして友人達の記憶等によって、極めてクオリティの高い記録映画として完成し、フィクションを挿入する必要は一切ないし、俳優が演じる必要もない。それこそが彼が成し遂げたことの偉大さの証明である。

冒頭の鮮明なスケーティング映像は、後継者と呼ぶに相応しいプロフィギュアスケーター、ジョニー・ウィアーのものであるが、最も多くの時間を割いているシーンは、競技、ステージ、練習などジョン・カリー自身の演技の映像であり、それこそが観客が最も観たいものである。ジョン・カリーはAIDSによる心臓発作で1994年に死去しているが、映画では彼の死については触れられず、1990年の最後の出演作品の幕を閉じている。この構成によって、彼の生涯が悲劇としてではなく、栄光に包まれたものとして祝福されている。

取り上げられた記録映像やBBCのインタビュー映像にはYouTubeで公開されているものも多く、私のようなマニアは既に自伝や伝記も入手済みだが、記録映画として編纂されることに意義がある。古い映像も映画の大画面に耐え得る精度で再生され、ジョン・カリーの美しいスケーティング、肉体そのもの絶対的な美、呼吸や空気感までもリアルに迫ってくる。

スケーティング映像が圧倒的な印象を放つ中、この映画で言葉の占める比重は高くないが、カリー自身の肉筆による手紙、肉声によるインタビューは彼の生き様を知るうえで非常に重要である。彼の人生は、同性愛者を異端とみなす外界との、そして魂に宿ていると自ら語った「悪魔」との壮絶な闘いでもあった。特に、BBCのインタビュアーが投げかけた「大して役に立つことをしたわけでもないけど、貴方の人生は意義あるものだったのでしょうか?」という 無礼極まる質問 に動揺も怒りも見せずに淡々と答えたと言葉が印象に残っている。

「実利的なことばかり追い求めるのでは人生はつまらない。僕のように美しさを追求する者がいてもいい。そして、フィギュアスケートにおいて、確かに僕はそれを成し遂げた」(日本語字幕は忘れが大体このような意味)。そう語り、自らの人生を肯定するカリーの目は澄んでいて、穏やかな自信 に溢れているようだ。

フィギュアスケートファンはもちろん、多くの人にこの映画を観ていただき、ジョン・カリーが先駆者としての産みの苦しみの中、自分らしさを貫き、確立した美の世界を堪能して欲しい。既に上映終了した映画館も多く、確認できた範囲で、東京、神奈川は現在下記2館で上映中。ぜひお見逃しなく。

川崎市アートセンター(7/26まで) アップリンク渋谷(8月上旬まで)

https://bit.ly/2Y2i7MM 前後の歴史背景も、ジョニー・ウィアーのスケーティングで始まる理由もわかるので、既に観た方もぜひご覧ください。

https://www.uplink.co.jp/iceking/ 公式サイト

公式サイト:

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